橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

巣鴨「千成」

classingkenji2009-05-19

今日は、ふと思い立って巣鴨へ。板橋に住んでいた頃は、よく地下鉄で通過していたが、あまりに身近すぎて、降りて飲みに行くことが少なかった。駅を出てすぐ右側、中山道をはさんで地蔵通りと反対側には飲み屋街があり、けっこう店が多いのだが、行ったことのある店は少ない。この店はよく知られた老舗のもつ焼き屋だが、遠い昔に一度入った記憶があるだけだ。
店内は、かなり広い。入って右側に、カウンター一二席。左側に、六人掛けのテーブルが三卓、奥には小上がりがあり、四人用テーブルがいくつか。さらに、二階もある。カウンターのいちばん手前に座って、まずはサッポロ黒ラベル(大瓶六〇〇円)と、牛もつ煮込み(五六〇円)を注文する。もつ煮込みは、ハチノスとシロを柔らかく煮込んだもの。鉢は小さめだが、汁が少なく、ひとつひとつの身が肉のエキスの凝縮されたとろみをまとった中身の濃いもの。素晴らしく美味しい。もつ焼き五本セット(五五〇円)は、レバ、カシラ、シロ、タン、ハツが一本ずつ。とくに良かったのはハツで、脈打つように鮮度が良く、旨みのあるたれとマッチしている。
客はスーツにネクタイ姿のサラリーマンが中心だが、カジュアル姿の中年男性も多い。そこへ黒っぽいブランドもののファッションに身を固めた二〇歳代の女性が一人で入ってくる。カウンターにいた中年男たちが、「おっ」と思わず眼で追うなか、カウンターに席を取った。「ここは、カウンターが人気なんだよ」と、隣の男が教えてくれた。
いい店だ。板橋に住んでいた頃、どうしてもっと通わなかったのか。とはいえ、池袋から二駅で、さほど遠くはない。また来る機会もあるだろう。(2009.5.15)

豊島区巣鴨2-3-8 ゆたかビル
16:00〜24:00 日休