橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

梅ヶ丘「みうら」

classingkenji2009-03-02

梅ヶ丘は、小田急線で下北沢の二駅先。名前の通り、駅から北側の丘に羽根木公園があって、ここは梅の名所である。飲食店では、最近は都内各所に進出している「寿司の美登利」総本店 が有名だが、いつも店先に行列ができていて、ゆっくり飲めそうにないので、行ったことがない。どこか落ち着いて飲めるところがないかと探して、見つけたのがこの店。
入って右側に、七席のカウンター。左には四人掛けのテーブルが三つ。初老の店主が一人で切り盛りしている。やきとりはタン、カシラ、レバ、シロ、ハツがあり、一本一〇〇円。カシラを注文すると、「タレでいいですか」という。おすすめということだろうから、その通りにしてもらう。出てきたのは、カシラといってもよくある肉塊ではなく、ゼラチン質と肉が層になった、三枚肉のような部分を、ネギと交互に刺したもの。タレがうまい。シロはタレで、タンは塩で出してくる。ここでは、タレ塩を指定する必要はなさそうだ。タンは大きめに切ったものを二つだけ端正に串に刺したもので、たいへんおいしい。その他、もろきゅう、板わさ、奴など三〇〇円から。ビールはキリンで、大瓶が六〇〇円。酎ハイはカウンターに並べたウイルキンソンにレモンスライスを浮かべて、三五〇円。これが、不思議に美味しい。
天井下には神棚、壁には皇室カレンダーと大相撲カレンダーという、昔ながらの日本の居酒屋の面持ちで、落ち着いた雰囲気がある。入ったときは、カウンターに老人が二人座っていて、店主と昔話をしたり、近所の商店の行く末について話したりしている。おそらく常連だけでもっている店だろうけれど、よそ者も自然に受け入れてくれる。(2009.2.25)

世田谷区梅丘1-22-10
日休