橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

思い出横丁「もつ焼 ウッチャン」

classingkenji2008-12-01

最近、新宿思い出横丁に、いろいろ新しい動きがある。まず、旧「やきとり横丁」を含めて、飲食店街全体を「思い出横丁」と称するようになった。東京工芸大学の笠尾敦司さんを中心に、「思い出横丁からアートする」というイベントが行なわれた。そして、それぞれにこれから思い出横丁の核のひとつになると思われる新しい店ができた。それが、以前紹介した「トロ函」と、この店「もつ焼 ウッチャン」である。 
もつ焼きは一本一五〇円が基本だが、やや大きめで割安感がある。ダンゴと上タンは二一〇円、日によってあるものとないものがあるようだが、刺身がレバ刺、はつユッケ、タン生、コブクロ刺し、ブレンズ刺しと揃っていて、いずれも四二〇円。モツ焼を何種類か食べたが、いずれも水準以上。ホッピー(四八〇円)は、焼酎をシャーベット状に凍らせたものをタンブラーに入れてでてくる。当然、氷はない。このやり方だと、薄まらず「三冷」に近い状態にはなるが、タンブラーを冷やす必要がなく、しばらくの間冷たさを保持する利点がある。ただし、クリーミーな泡は期待できないから、好みは分かれるかもしれない。生ビールは五五〇円、瓶ビールは少々お高く七五〇円だが、原価を考えるとこの価格設定は正しいのだろう。酎ハイは三八〇円。
土曜日だったせいか、スーツにネクタイ姿のサラリーマンは見かけない。若者と、中年に足を突っ込んだくらいの年齢のカジュアルな服装の客ばかり。隣の四人組は、かなり酔って盛り上がっている。いちばん酔っているのは上司らしい男で、後輩たちに「早くがんばって主任になれよ、俺はまじめに仕事してるんだ、わかるだろ」と説教口調。店員は三人で、二人の男性は黙々と料理を作ったり串を焼いたりし、若い女性が敏捷に立ち回る。この横丁では広い店だが、注文の通りはいい。思い出横丁にあまり慣れていない人でも、気軽に入れる店が生まれたことは大歓迎だ。早くも、名物店の予感がする。(2008.11.22)