橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

パリ・革命記念日前夜祭

classingkenji2008-07-16

夕食を終えて、寝酒を飲んでいるころ、窓の外から音楽が聞こえてくる。そうだ、革命記念日の前夜には、あちこちで歌えや踊れやの大騒ぎがあると聞いた。そこで、ムフタール通りに面したコントレスカルプ広場へ出かけた。小さなステージが設けられ、バンドが曲を演奏している。まわりには、音楽に聴き入る人、おしゃべりに興ずる人、そして大切な人と踊る人。高齢者夫婦もいれば、高齢の女性どうしもいる。もちろん、若者たちや子どもたちも。広場のまわりのカフェは満員盛況。バンドは最初、ラテン音楽を流していて、まわりの人のダンスもぎこちない。12時近くになるとシャンソンが流れはじめ、みんなのダンスもリズムに乗ってくる。「パリは燃えているか」がアコーディオンで演奏されると、高齢者を中心に、いちだんとノリがよくなったように思えたのは、気のせいではないと思う。広場に面したアイリッシュパブで、ギネスを飲みながら人々の表情をみる。要するに、日本でいえば盆踊りのようなものだろう。盛り上がるなか、後ろ髪を引かれる思いで帰る。
翌日は、シャンゼリゼ通りへ。人混みであまりよくみえなかったが、戦車、自走砲、装甲車、多連装ロケットランチャー、タンクローリーなどが走り、エコール・ポリテクニーク士官学校の若者が制服を着てサーベル下げて行進し、上空を戦闘機や輸送機が飛び去った。本格的な軍事パレードをみたのは初めて。昨日は、地中海連合のサミット、そして今日は革命記念日サルコジが株を上げた日になったようにみえるが、まわりの見物人の多くは英語をしゃべる観光客。途中、日本人の若者に「日本の方ですか」と話しかけられた。「今日は、何かあるんですか」、という。そんな程度の観光客が、かなりの部分を占めていたのではないか。(2008.7.14)