橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「三州屋銀座店」

classingkenji2007-09-01

1月に行った三州屋は、並木通りの銀座二丁目だが、こちらは銀座一丁目。どちらも「三州屋銀座店」でまぎらわしい。二丁目の方は「活魚一品料理」、一丁目の方は「大衆割烹」「活魚料理」とある。ただし一丁目店は路地を入るのではなく、西五番街通りに面していていて見つけやすい。今日は開店直後の五時過ぎに入った。右側に六人掛け、左側に一〇人掛けのテーブルが、それぞれ三卓ずつある。入ったときは定食を食べている客が一人だけだったが、みるみるうちに客が増えてくる。クールビズ姿の四〇−五〇代サラリーマンの二人組と三人組、そしておしゃれなカジュアルファッションの若者三人組。
この店は、魚の種類の多いのがいちばんの特徴。メニューは、二丁目店とほぼ共通で、やや種類が少ないくらい。店の面積はおそらく三分の一くらいだから、よく頑張ってるといっていい。ビールはサッポロ黒ラベルで、中生が五五〇円、大生が八五〇円。生ビールのコンディションは良好で、ライオン系のビアホールとさほど変わらないほど。魚も、たいていはおいしい。ここへ来るとたいがい注文するのは、貝の盛り合わせ(一〇〇〇円)。今日は、ホタテ、トリ貝、赤貝、青柳、北寄貝が鉢に盛られてきた。追加で注文した鱧の梅肉は、茹で過ぎかあるいは日が経っているのか、ぼそぼそに固くてハズレだった。ホタテの磯辺焼きは、醤油味で焼いたホタテを海苔でくるんだ逸品。悪い店ではないのだが、女性店員が何かと注文を催促するのが難点。次は何にしようかと話していると、勝手に品名を聞き取って厨房に伝えたりする。もう少しゆったりした気分で飲ませて欲しいものだ。これは、居酒屋としてはかなり重大な欠点である。(2007.8.31)