橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

札幌「サッポロビール園」

classingkenji2008-01-24

シンポジウムに参加のため、二泊の予定で札幌へ。一泊でもいいスケジュールだったが、冬の札幌は初めてなので、一日余裕をみて出かけることにした。まず向かったのは、当然のようにサッポロビール園である。サッポロビール園はもともと工場併設の施設だったが、数年前に工場は閉鎖され、跡地にはイトーヨーカドーの商業施設が建設されている。そのため、前に来た時とは景観がかなり変わった。残念だったのは、ここのシンボルともいうべき赤煉瓦造りの建物、開拓使館の一階にあった「クラシックホール」がなくなってしまったこと。このビアホールは、ジンギスカンは出さず、北海道の海の幸を使った料理が中心のメニューで、私はひそかに日本一のビアホールだと思っていたのだが。ビール園に来る客の多くは、ジンギスカン目当てだということなのだろうか。仕方がないので、メニューからみて後継施設と思われる「ガーデングリル」に入ることにする。
新しい建物で、テーブル席と個室がある。開拓使館の正面に向かって大きな窓があり、眺めは大変いい。赤煉瓦の映える雪景色を眺めながら、まずはサッポロクラシックをいただく。このビールは、レギュラー価格の量産品としては日本一美味しいビールだといって間違いあるまい。料理は北海道らしいものを中心に注文。ニシン漬けは、大根とニシンを漬け込んだもの。大根はよく味がしみているのに、歯ごたえがあって口の中で威勢よく音を立てる。オリジナルラムソーセージは、ラムのミンチをケーシングに詰めた、おそらくノンスモークのソーセージで、肉汁の味が楽しめる。二〇センチほどもあるものが二本で五〇〇円とは驚き。少々奮発して注文したタラバガニの磯蒸し(三五七〇円)は、鉄製の皿の上に昆布の細切りを敷き、その上に生のままのタラバガニを載せ、ガラスのドームで蓋をしてから火にかけ、出来上がるまでの間蒸し上がっていく様子を見て楽しむことかできるというもの。タラバガニの鮮度は今ひとつだったが、蒸したてにかぶりつく快感はなかなかのもの。ビールは定番品の他に、開拓使麦酒、サッポロファイブスター、季節のおすすめとしてハスカップ発泡酒があった。一通り飲んだが、やはりクラシックがいちばんである。
満足したあとは、サッポロビール博物館へ。恵比寿のビール博物館のようなアトラクション志向ではなく、サッポロビールの歴史に焦点を当てた、ビール通好みの展示である。見終わったあとは、テイスティングルームでビールをいただく。美味しかったのは、限定品のアルトビール。ブラウンからカッパーの色合いで、ホップの苦みと香りが際だつ。以前出していたライオンエールもそうだったが、サッポロは中濃色ビールを造らせると世界でもトップレベルといっていい。これは、ぜひ市販してほしいものである。(2008.1.20)