橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

神保町「やきとり道場 こだわりやま」

classingkenji2007-12-14

今日は、社会理論学会の大会で講演を頼まれ、駿河台の明治大学へ。あまり知られていない学会だが、参加者には古い新左翼系(形容矛盾だが)の研究者や活動家が多いようで、平均年齢は極めて高い。会の後の懇親会場は御茶ノ水駅そばの中華料理店で、居酒屋好きの私としては欲求不満が残るので、神保町で飲み直すことにする。
そこで見つけて入ったのが、三省堂の地下のこの店。こだわりやまと言えば、チムニーが経営するチェーン店だが、これは「やきとり道場」が名前の頭につく新業態で、一二月五日に開店したばかりとのこと。焼き鳥はねぎま、すなぎも、なんこつ、ぼんじり、せせり、手羽先、かわ、ればー、こころとあって、すべて一〇〇円。焼きとんは、はらみ、がつ、たん、かしらが一〇〇円。そのほかにイベリコ豚、黒豚チーズ巻(各二八〇円)などもある。ホッピーがあり、通常はセット四〇〇円、中一五〇円、外三〇〇円だが、開店記念特別価格ということでそれぞれ三〇〇円、一〇〇円、二〇〇円だった。ビールはキリンで、中生四五〇円、クラシックラガーの中瓶が五〇〇円。焼酎が一〇種類あり、金宮がグラスで二九〇円、ボトルで九八〇円というのが目を引く。焼き鳥・焼きとん、ホッピー、金宮と、下町大衆酒場を模倣しながら新しい味を加えたというメニュー構成だ。古い飲食店街は再開発が進み、次々に取り壊されている。そうでなくても、経営難と後継者難で、次々に閉店していく。その後にできるのが、低賃金のフリーターたちに支えられるこうした新業態のチェーン店だが、それは大衆酒場の良さを取り込むかたちで発展している。人びとが、それを求めているからだ。ならば、なぜ古い大衆酒場を残せないのか。零細な自営業を保護し、都市のあちこちに生き残る猥雑な町並みと地域文化を維持する政策が欠如しているからだ。場所柄もあり、土曜日でもあるから、客の大部分は学生たちだ。若者が入りやすくなるような工夫さえあれば、大衆酒場は必ず繁盛する。そこに希望を見つけたい。(2007.12.8)