橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「鳥元」

classingkenji2007-12-12

買い物のあと、新宿西口の飲食店街へ。銘酒居酒屋「吉本」が目当てだったのだが、あいにく満席。どこへ行こうかと近くを見回すと、和風ながらちょっとモダンな感じの店に「炭火串焼・十割そば 鳥元」の看板が。そういえば、聞いたことがある店だ。外のメニューを見るとホッピーもあるというので、入ってみることにする。黒塗りの木を貴重にした店内は、落ち着いた大人の雰囲気で、客も中年サラリーマンや熟年カップルが多い。メインとなる串焼きは、比内地鶏名古屋コーチン、薩摩軍鶏の三種類が揃うのが売りで、比内地鶏の岩塩焼や炙りタタキが九六〇円、名古屋コーチンが七〇〇円と安くはないが、味は値段に見合っている。普通の鶏ならば、いろいろ串焼きで注文できる。魚料理も多い。三陸産とサロマ湖産の二種類ある生牡蠣は、リーズナブルで美味しかった。酒はひと通りある。焼酎は「吉兆宝山」「富乃宝山」「くじら」「残波」などといろいろ揃い、グラスで四五〇−六八〇円。居酒屋としては中の上くらいの値段ながら、ホッピーがセットで三九〇円、中が二〇〇円と安いのはうれしい。大衆酒場に連れて行くようなタイプではないお上品な人も連れて行ける店で、ホッピーと焼鳥があるのだから、万人向け。職場の集まりなどには、使える店だと思う。
調べてみると、「土風炉」などと同じくラムラが経営するチェーン店で、東京・千葉・神奈川に二十三店あるとのこと。いまやチェーン店は、かつてのようにワンパターンで大量展開するのではなく、多様な業態で多様なニーズに対応するようになっている。それが、衰退しつつある伝統的大衆酒場の隙間を埋めていくことになるのかもしれないが、ちょっときれいすぎて私は落ち着かない。加賀屋のような大衆酒場の良さを残すチェーン店が増えれば、オジサンの一人客が行き場所に困ることもないと思うのだが。(2007.12.7)