橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

吉祥寺「美舟」

classingkenji2007-09-23

「てっちゃん」で飲んでいると、正面右側に「やきとり」と書かれた古い赤ちょうちんが見える。これは、行かないわけにいくまい。というわけで、すりガラスの入った引き戸を開ける。中は、何とか八人くらいは入れるかというコの字型カウンター。年季の入った飴色の店内は、歴史を感じさせる。カウンターの中には、細身の女将さんが一人でいらっしゃる。まずは、ホッピーを注文。ここのホッピーは、焼酎と瓶が出てくる普通のスタイルではなく、タンブラーに一杯分を作って出すスタイル。小さな店なのに、料理の種類が多い。魚料理が豊富で、イワシ、アジなどは刺身、たたき、塩焼き、天ぷら、南蛮漬けなど、あらゆる調理法が並ぶ。狭いカウンターの中で、こんなに料理ができるものかと思ったら、カウンター横に小さなエレベーターがあった。厨房は二階にあるとのこと。二階にも席があり、こちらの方が人数が入れそうだ。さんまの刺身を食べてみたが、新鮮で美味しい。
お客さんは、古くからの吉祥寺住民という感じの中高年が多い。若者と大企業風のサラリーマンが集まる「てっちゃん」とは好対照。ハモニカ横丁らしいともいえるかもしれない。「てっちゃん」は、二〇代から三〇代の若者四人が切り盛りしていた。客層も、違う。新旧がどれほど共存しているかというのは、盛り場の活力のバロメーターである。