橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

辰口温泉「まつさき」

classingkenji2007-08-13

この日は義父の喜寿祝いで、辰口温泉へ。金沢から車で三〇分ほどのこの温泉は、規模が小さく、全国的にはさほど知られていないが、地元の人々にはけっこう親しまれているようだ。この「まつさき」は泉鏡花が執筆の場所にしばしば使っていたという老舗で、広大な庭園が自慢。部屋からの眺めもよく、紅葉の季節はさぞかし美しいことだろう。風呂は屋上の展望露天風呂と大浴場の二種類がある。
さて料理だが、先付はサザエと加賀野菜の生姜酢ゼリーという手の込んだもの。前菜には煮鮑、のどぐろいしる焼き、烏賊うるか和え、いちじく田楽など。鱧の子しんじょと蓴菜の椀物、お造り、鮎たで酢味噌、能登牛の焙烙焼き、鱧と海そうめんの酢の物などと続いた。温泉旅館としては、かなりの水準である。酒は、地元の手取川がメインだが、各種の地酒やワインも揃える。純和食だから注文はしなかったが、シャトー・マルゴー・パヴィヨン・ルージュや、グロ・フレール・エ・スール・オート・コート・ド・ニュイなど、ワインの種類も多い。
翌朝の朝食も、くずあんをかけた白粥、小鉢五種類、カレイの一夜干しなど充実。一泊二食二万円程度とのこと。加賀温泉に飽きた人はどうぞ。