橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

信州「ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー」

classingkenji2007-04-30

連休も忙しいのだが、一泊二日で信州の温泉に休養に行く。途中、立ち寄ったのが、玉村豊男経営のこのワイナリーのレストラン。ここで、ランチコース三五〇〇円をいただく。パテとクリームチーズアミューズのあとは、野菜を中心とした前菜盛り合わせ、そして選べるメイン料理から、私は「蓼科豚肩ロースのコンフィ、春キャベツとレンズ豆(写真)」を選んだ。コンフィというのは、手間はかかるものの肉の優れた調理法だと思う。これを春キャベツで包み、レンズ豆の煮込みを敷いた皿に載せる。彩りも良く、玉村豊男デザインの皿に映える。デザートは、ストロベリーソースのババロア、チョコレートケーキなど。ワインはシャルドネメルローの二種類、それぞれグラスで、高級品のリザーヴ(七〇〇円)と、レギュラー品(五〇〇円)がある。四種類を試したあと、最後にグラッパ(七〇〇円)をいただいたので、かなりお高いランチとなった。ただし、料理の味はかなりの水準である。
レストランは、なかなか眺めがいい。右側に花壇、左側にブドウ畑を見下ろすロケーション。残念ながら私は、入り口に近い席だったが、窓側の席は気持ちがいいだろう。このワイナリーは、日本で一番小さいワイナリーと称している。酒税法ではワインの最低醸造量が六キロリットルと定められているから、おそらく、醸造量が六キロリットルちょうどなのだろう。ということは、ボトルにして約八〇〇〇本。実際、見学した工場には、発酵・熟成用の樽が一〇本しかなかった。これは、勝沼の家族経営のワイナリーと比べても一ケタ小さい規模である。このワインを、リザーヴは五〇〇〇円、レギュラー品は三〇〇〇円で売っているから、平均単価を三五〇〇円として、わずか二八〇〇万円。確かに国産にしては美味いとはいえ、三〇〇〇円や五〇〇〇円の価値があるかといわれれば、首をかしげざるを得ないワインをこの価格で売ることができるのも、玉村豊男知名度あってのことだろう。売店で売っている、皿や絵葉書、Tシャツなどのグッズ類も、かなり高めの価格設定。店員の数は驚くほど多く、中には玉村豊男を慕ってやってきて居候している若者もいるとのことだ。つまり、ボランティアだろう。これは、知名度のある経営者の、講演・執筆活動、絵、グッズ販売などをセットにしてはじめて成り立つ事業であり、農村を活性化するビジネスモデルにはなり得まい。
 場所は不便で、上田駅から車で二〇分ほど。ワインを飲む以上、タクシーを使わざるを得ないから、交通費が片道で四〇〇〇円以上もかかる。何度も行くようなところではないが、一度行ってみる価値はある。(2007.4.28)