橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

金沢「四十萬谷本舗」

classingkenji2007-08-14

この店は、金沢の漬け物の老舗。金沢市街の南側、寺院が密集する寺町の裏手に工場と本店を構える。麹味噌と酒粕を合わせた中に野菜を漬け込んだ「金城漬」がメインだが、冬季限定のかぶら寿しも美味。その他にも一夜漬けや魚介類の粕漬けなど、いろいろな製品を作っている。最近では、加賀煎り茶や加賀名産の五郎島金時というさつまいもを使ったジェラートも。
この店の五代目となる跡継ぎ娘は、私の高校の同級生で、妻の友人。突然の訪問だったが、にこやかに迎えてくださり、ジェラートをご馳走してくれた。創業は明治八年というが、本店は古い蔵を改造したもので、天井が高く、伽藍のような風格がある。味噌と酒粕を使った漬け物は、当然どれも酒に合うのだが、どうせならこの土地ならではの魚介類の漬け物を食べてみたい。珍しいのは、ふぐの卵巣のぬか漬けである。ふぐの卵巣には大量の毒があり、普通は食べることができない。しかし石川県には、長期間塩と糠に漬け込み、発酵させることによって解毒する技法が確立していて、日本で唯一、食用が認められている。強めの塩味とともに、ふぐの滋味が口に広がったところを酒で流し込む。これは日本酒の快楽のひとつの頂点ともいえる。金沢駅や市内のデパートに支店があり、通信販売もやっている。写真は撮り忘れたので、四十萬谷本舗のホームページから拝借した。