橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

信州ビール事情

classingkenji2007-05-02

日本のビール市場は、基本的にキリン、アサヒ、サッポロ、サントリーという大手四社の寡占状態である。ビール類全体のシェアでは、キリンとアサヒが熾烈なトップ争いをしているが、発泡酒等を除くビールのみでみれば、完全にアサヒの圧勝で、そのシェアは五〇%を超える。東京にいると、確かにアサヒがよく売られているが、他のビールに比べて圧倒的に強いという印象はない。だから、アサヒビール吾妻橋工場のお膝元だった浅草のような例外を除けば、どこへ行ってもアサヒ以外のビールをおいている居酒屋を簡単に見つけることができる。シェア五〇%という実感はない。
しかし、信州へ来てみて驚いた。店の大部分が、アサヒスーパードライしか置いていないのである。オラホビールのレストランでも、自社ビール以外では唯一、スーパードライだけは置いてあった。町に数ある蕎麦屋も、置いているのはアサヒのみであることが多い。泊まったホテルは、さすがに三社のものを置いていたが、「ビール」と頼むと出てくるのはスーパードライで、しかもスーパードライは大瓶と中瓶があるのに、サッポロとキリンは大瓶のみ。そして自動販売機ではアサヒしか買えない。
極めつけは、スーパーの品揃えだ。写真は上田駅前のあるスーパーのビール売り場である。他社のビールが二列か三列を辛うじて確保しているだけなのに対して、スーパードライは広い通路に面した一等地を、文字通り独占している。単純に、売り場に占める面積が売り上げと比例するとしたら、シェアは七割近くにもなるだろう。なぜ、こんなに強いのか。謎である。