橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

志村三丁目「新潟」

classingkenji2007-03-15

前にも書いたように、志村三丁目都営三田線が地上に出たところの駅。つまり、武蔵野台地から北へ坂を下った場所である。この「新潟」は、改札を出て左方向へ行き、二本目を右に曲がってガードをくぐったところにある。店内はテーブルが四卓と壁際のカウンター。二階では宴会も可能。店内のインテリアは、ご覧のように昭和三〇年代の雰囲気だが、ところどころに獣の皮が飾られていて、「猟師の野獣肉専門店」と称している。
キャッチフレーズ通り、店主は猟師で、猪、鹿、熊、鴨などを食べさせる。壁には「東京で三店だけ 両国ももんじや 新宿とちぎや 板橋新潟」とある。江戸時代から続く老舗のももんじやと同格かどうかは別として、珍しい店であることは間違いない。ただし普通の居酒屋メニューもあり、各種の焼きとんの他、えいひれ、なす焼、もずく、天ぷらなどを出す。焼きとんは、東松山と同じようなみそだれが基本。酒は、新潟の地酒を十数種類揃え、八海山、〆張鶴、鶴齢、上善如水などが五〇〇円、越乃誉、天神囃子、麒麟山などが四〇〇円と安い。板橋に住んでいた一時期は、ここで鴨鍋を囲んで忘年会をするのが習慣だった。珍しい野獣肉だから、一部が冷凍になるのは仕方がない。今日は串焼きで猪(五〇〇円)と鹿(四〇〇円)を食べたが、猪のほうはパサパサだった。鹿は、肉汁したたる旨さ。この店、繁昌しているときと閑古鳥の鳴いているときとがある。少し時間が早めだったこともあるが、今日の客は私一人だけ。ふだんは、近所の中小企業のサラリーマンたちが集まる。(2007.3.12)