橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

下北沢「魚真」

classingkenji2007-01-06

私の家と経堂駅をはさんだ反対側に、有名な魚屋「魚真」がある。一二時半の開店時には、飲食店関係者が大挙して押し寄せ、空になった発泡スチロールの函が、次々に山積みされていく。この時間帯に行っても、威勢の良いプロたちの間にはさまれておろおろするだけ。素人が落ち着いて買い物できるのはその後、一時過ぎてからである。私もときどき出かけるが、ここで売っている魚に外れはない。値段は、物にもよるが概して割安感がある。
この魚屋、渋谷、下北沢、吉祥寺に魚料理を出す居酒屋を経営しており、今日行ったのは、その下北沢店。「今宵は魚にまみれてみませんか?」というコピーが笑える。正月だけあって、いつもよりは品数が少ないようだが、それでも並の店よりははるかに多い。一五〇〇円の刺身盛り合わせには、ヒラメ、ホタテ、コハダ、マグロ、ブリが盛り込まれ、十分二人分はある。今日はとくに、歯ごたえのあるヒラメが良かった。別に注文した、寒鯖を表面だけ軽くしめたしめ鯖も素晴らしいおいしさ。穴子の白焼は今ひとつだったが、イカと太刀魚の天ぷら盛り合わせも良かった。切り落としを集めて煮たアラ煮はなんと一〇〇円。ビールは、生がサッポロ黒ラベルで、瓶はキリンラガーとヱビスを出す。焼酎と日本酒も何種類かあり、この店で飲もうと思ったことはないが、ワインもある。ふだんはもう少し料理の種類が多く、キンキの煮物など絶品なのだが、今日はメニューに載っていなかった。
場所柄、若者のグループも多いが、三〇代から熟年のカップルも多い。隣に座ったカップルの手に、おそろいの金のリングが光っているのを見つけた妻は、結婚して一年以内、たぶん半年も経っていない、という。リングに傷が付いていないからだとか。鋭い観察眼ではある。
以前行った同じ下北沢の「楽味」ほど手のかかった物は出さないが、魚の味では引けをとらない。そして、値段はあくまでリーズナブル。渋谷店は東急本店の近くにあり、味も値段も同じなので、魚の好きな人はぜひ行ってみると良い。(2007.1.5)