橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

正月の思い出横町

classingkenji2007-01-03

思い出横町、別名しょんべん横町へ、買い物ついでに行ってきた。といっても、開いてる店は数えるほど。
この飲み屋街、嫌いではないが、あまり多くは行かない。雰囲気は好きなのだが、大衆的な見かけほどには安くないのが、第一の理由。ビール大瓶は六〇〇円が相場で、これは場所柄しかたがないかもしれない。しかし焼鳥、もつ焼きの類は、一本一五〇−二〇〇円が普通で、中には二本四七二円などという値段を付ける店もある。今日入ってみた店など、串焼き六本とビール大瓶一本、これに突き出しが付き、滞在時間三〇分ほどで一九〇〇円。「一時間制限」などという張り紙があるが、これでは普通、長居する気は起きないだろう。
その点、二軒目に入った「つるかめ食堂」はいい。ビール大瓶は六〇〇円、一品料理は一五〇円からで、煮物が二〇〇円、ポテトサラダと串カツ(二本)が二五〇円、天ぷら類は三〇〇円。どうしても串焼きが食べたいというのでなければ、この横町ではこの店がベストだと思う。コの字型カウンターの店内は、客と客の間のところどころに空席があるものの、かなり満席に近い。一二人ほどの客は、カップル二組を除けば男性ばかりで、いずれもジャンパーやダウンジャケット姿。家庭を抜け出してきたサラリーマンもいるのかもしれないが、いかにも独身男の楽園という雰囲気がある。新年早々、この店で飲もうというメンタリティ、私は好きだな。この店の常連客のライフヒストリーを追っかければ、けっこういいノンフィクションが書けるのではないだろうか。サッポロラガー一本を飲み、ポテトサラダと串カツを食べ、突き出しなしの一一〇〇円。まっすぐ帰りたくない時に、また寄ってみることにしよう。(2007.1.3)