橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

福岡「寺田屋」

classingkenji2006-12-27

福岡の二日目、まず昼間は市内および周辺を観光。これまで行ったことのなかった太宰府天満宮にも行ってきた。天満宮は、年の瀬にもかかわらずけっこう人出がある。境内の手前にある太鼓橋の下に猫が一匹。その凛々しい面構えに感心し、ミチザネと命名。昼食は参道にあるそば屋「やす武」で、おろし蕎麦をいただく。美味。お土産に、手づくりの柚胡椒を買う。

夜はまず、有名なもつ鍋店「もつ壙」へ。開店直後の六時に行ったのだが、予約が一杯で「七時までなら」とのこと。こちらは、もつ鍋を少し食べてから飲みに出かけるつもりだからいっこうにかまわない。かわいそうだったのは少し後に来た客で、「広島から食べに来たんです」と哀願するも、満席だからと断られていた。ただし店員の態度は悪くはなく、これは予約しなかった客の失敗としかいいようがない。
二軒目は、太田和彦の本にも載っている「寺田屋」。こちらも予約がいろいろ入っているようだが、カウンターの隅を何とか空けてくれた。カウンターを囲んだのは、博多弁丸出しの早口で話し続けるおばちゃん二人と、デザイン関係かと思われる八人ほどのグループだった。古びた味を出した木造家屋のような作りは、伏見の寺田屋をイメージしたとのこと。瓶ビールはサッポロ、麒麟、アサヒと揃って六〇〇円。焼酎は、坊の津、佐藤黒、山ねこなどいいところを揃えて、いずれも一合一〇〇〇円。日本酒は一〇種類ほど、ワインも五種類ほどを揃える。メニューには料理の値段が書かれていないが、フグ白子の二五〇〇円を最高に、だいたい下は六〇〇円から一〇〇〇円前後までとのこと。刺身もよかったが、とくに良かったのが、海うなぎのたれ焼。海うなぎということは、海で獲れた天然物ということだろうが、身がしっかりしていて味も濃く、これまで食べた中では四万十川の天然うなぎと肩を並べるうまさ。私としては、自然に古くなったのではなく、古さを作った雰囲気に若干の違和感があるが、確かに名店ではある。
遅くなっても、繁華街の賑わいは絶えることがない。屋台は二時までとのこと。福岡には何度も来ているが、これまではすべて仕事関係で、食事はホテルで立食などということが多かった。今回は飲み食い目当ての二泊で、十分楽しむことができた。(2006.12.27)