橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

日田工場の黒ラベル

classingkenji2006-12-28

福岡に二泊したあとは、別府と雲仙に泊まった。食事は、別府ではビュッフェ、雲仙では部屋食だったが、とくに書くほどのことはない。飲んだのは、大分の日田工場で作られたと思われるサッポロ黒ラベルである。製造所固有記号は、Hだった。
天然水を売り物にするビールもあるが、ビールというのは製造の過程で、水にミネラルなどを加えて調整しており、さらに糖化・濾過した後の麦汁を一時間から二時間程度煮沸する工程もあるので、水の硬度がビールの性質に影響することはあっても、もとの水の味そのものが製品に色濃く反映されるということは考えられない。この点、水をそのまま使う日本酒や、蒸留の後で割水をするウイスキーや焼酎とは、事情がまったく異なる。しかし、気のせいかこのビールはうまかった。単に工場が地理的に近いせいかもしれないが、そんなことをいえば千葉工場で造られたビールを東京で飲む方が距離は近いかもしれない。日田はもともと水が美味しいことで知られる土地柄だから、このことが味に関係しているのか。設備や醸造責任者のクセが反映されているのか。それとも、良い温泉にゆっくりつかった後だったからか。最後の仮説がいちばん有力だが、これから製造所固有記号には注意するようにしようと思う。