橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

長崎「長崎全日空ホテルグラバーヒル」

classingkenji2006-12-30

一二月三〇日、三一日と二泊したのが、このホテル。名前の通りグラバー亭のある丘の下にあり、横の坂を上ればすぐに大浦天主堂。このホテルには、レストランが二つある。和食と中華の「潤慶」、そしてフレンチの「パヴェ」である。二食付きのパックだったので、基本的にはここで夕食をとることになる。
一日目は「潤慶」で卓袱料理のコース。和食と中華を一つの店で出すというのも、卓袱料理という背景を考えれば理にかなっている。正直なところ、ホテルのレストランにはあまり期待していなかったのだが、お鰭からはじまって、刺身、鯨、八寸、炒物、揚物、椀物、角煮饅頭と続くコースは、意外にも美味しかった。卓袱料理というよりは、日本料理と中華料理、卓袱料理を組み合わせたコースに近いと思うが、それもまた一興。とくに卓袱料理を盛り込んだ八寸と、団扇海老の卵白ミルク炒めが良かった。美味しくなかったら、どこか開いてる店を探しに出かけようと思っていたのだが、まったくその気は起こらなかった。ホテルのレストランのこと、ビールは小瓶が七〇〇円と高い。とりあえずの一本だけ飲み、その後は地元九州の焼酎をボトルで注文。これは三〇〇〇円台と安い。壱岐の名酒「山の守」をいただいたが、これが素晴らしいうまさ。壱岐焼酎琉球泡盛球磨焼酎と並んで産地指定を受けており、原料は米麹1:麦2と決められている。東京でも手に入るので、これから愛飲しようと思う。
二日目は、「パヴェ」でフレンチをいただく。姫サザエのブルギニオン、蕪のコンフィに載せたフォアグラのソテー、真鯛団扇海老のグリル、和牛のステーキ黒トリュフソースと続くコースは、意外に美味しく、大満足。長崎でフレンチ?と思われるかもしれないが、地元の材料を使ったフレンチというのがこの店のコンセプトらしく、野菜、魚、肉、いずれも地元産だから文句はない。長崎観光の拠点にふさわしい立地に、これだけ美味しい料理が食べられるというのは得難いことだ。個人的には、銅座・思案橋あたりをはしご酒する方が好きだが、恋人や配偶者との旅行にはぴったりだろう。ただし年末年始は、旅行客と正月をホテルで過ごそうという地元の人々で混み合い、料金も高くなるので注意。今回もそういうわけでけっこう散財したが、たまの贅沢というものである。
元日の朝は、再び「潤慶」で朝食。うれしいことに、長崎風の雑煮と、黒豆に田作り、数の子など定番のお節料理の付いたセットで、食前酒にお屠蘇まで付いていた。さらにチェックアウトの直前には一階のロビーで祝い酒が振る舞われ、餅つき大会まで始まった。なかなかのサービスである。客は家族連れが三分の二に、いろいろな年齢層のカップルが三分の一といったところだろうか。こんな場所で正月を迎えさせてもらう子どもは幸せだ。主婦だって、大掃除の後、お節を作る必要がないのだから、楽だろう。(2006.12.30-2007.1.1)