橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

長崎「馬次郎」

classingkenji2006-12-31

前回、私が長崎を訪れたのは、一九九五年のこと。長崎で行われた日教組の全国教研に出席するためだった。当然のことながら、集会の後は飲み歩く毎日だったが、偶然見つけて気に入ってしまい、三日続けて通った店があった。それが、銅座にある馬料理の店「馬次郎」。
「パヴェ」でフレンチを食べた後、紅白を見るという妻を部屋に置いて、大晦日でも中華街なら開いてる店もあるかと思って出かけたものの、見事に全部戸締まりしている。それでは銅座あたりはどうかと歩いてみると、けっこう開いている店が多い。「馬次郎」の場所は記憶が定かではなかったが、意外に簡単に見つかった。九〇〇円、一二〇〇円、一五〇〇円、時価と四段階ある馬刺しのメニューが店の前に出ていたので、すぐにわかった。店の女将さんに、全国教研で三日続けて飲みに来たよというと、リップサービスかもしれないが、何となく覚えていると言っていた。
コースを食べた後なので、珍しい馬タン刺し(写真下・九〇〇円)だけいただき、飲み物は最初に生ビール、ついで壱岐焼酎をいただく。生ビールはサッポロ黒ラベル。九州はアサヒのシェアが高いので、これは助かる。この店の馬刺しは、熊本産。しかし、熊本で食べた馬刺しより、こちらの方が美味しく、しかも安いと思う。もちろん熊本にも美味しい店はあるのだろうけれど、私が訪れた二−三軒の店よりは、こちらが上である。何人かで行ったなら、四段階ある馬刺しを一人前ずつ注文して、食べ比べるといい。他にも、馬もつの煮込みや炒め物、焼き物などがある。壱岐焼酎との相性も良い。大晦日だけあって、客は少ない。私の後は、常連というより身内らしい若い女性が一人来ただけだった。

聞いてみると、大晦日に店を開けるようになったのは最近になってからとのこと。周りの店もみんな同じで、不景気で客が減ったため、年末年始に外で飲みたいというお客さんを集めようということらしい。次回はぜひ、いろいろ食べ比べたいところだが、いつになることだろうか。(2006.12.31)