橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

西日暮里「串道楽」

classingkenji2018-04-05

この日は、西日暮里へ。新しい店を見つけたいと思って駅周辺を歩き回り、見つけたのがこの店。店頭にホワイトボードのメニューがあり、魚料理十数種類と、日本酒数種類が記されている。
店主と女将の二人で切り盛りする小さな店。カウンターが六席と、小さな座敷のみ。日本酒の飲み比べセットというのがあったので、いただくことにした。参乃越州菊姫・先一杯、久保田千寿、道灌・吟醸、奥の松・純米と、あまり珍しくはないが許容範囲の品揃え。ここは、料理を楽しむ店のようだ。冷や奴、もろきゅう、焼鳥といった定番メニューはカウンター上の黒札に下がっているが、ここではホワイトボードメニューから注文すべきだろう。
活うまづらはぎ刺身七五〇円、活おこぜ刺身七六〇円、活そい刺身八〇〇円、おこぜ姿煮六五〇円など。価格設定が細かいところに、良心的な商売を感じさせる。うまづらはぎをいただいたが、身は美しい薄切りで、肝も十分ついている。主人はかなりの目利きで、良い腕の持ち主のようだ。おこぜの姿煮も悪くなかったが、刺身にした方が良かったかなと思う。また来てみたい店である。(2018.3.3)

荒川区西日暮里5-33-5
17:30〜23:30 日休

「魚と酒 はなたれ」

classingkenji2018-03-17

この日は築地の朝日新聞社で、『下流老人』の著者、藤田孝典さんと対談。その模様は、AERAの2018年2月26日号でお読みいただける。終わったあとは、新橋で飲む場所を探す。いろいろ徘徊したあと、見つけて入ったのがこの店。カウンターが一席空いているだけのところへ滑り込んだ。六時少し前に入ったのだが、予約客があるので六時までと時間を限って入れてもらった客が何人かいて、人気店であることがうかがえる。
八種盛られて一三八〇円の刺身の盛り合わせが、美味い。そして日本酒の品揃えが良い。いずれも一五〇ミリリットルで、「而今」九〇〇円、「川中島」九五〇円、「久礼」八〇〇円、「昇竜蓬莱」九五〇円など。しかも二〇時までは半額だというので、四杯ばかり楽しませていただいた。料理は、小皿で出てくるお任せの「本日のあて」、六皿九八〇円、八皿一二八〇円、一〇皿一六〇〇円など。
調べてみると、都内に一〇軒ほどあるチェーン店らしい。個人営業テイストの魚割烹で、なかなか良い店だと思う。(2018.2.9)

港区新橋3-21-2江藤ビル1F
11:00〜24:00 日休

椎名町「おぐろのまぐろ」

classingkenji2018-02-19

この日は、通信制の卒業研究発表会。三人の発表を聞いたあと、学生たちと一緒に所沢の「百味」で昼酒を飲む。四時頃で解散したのだが、まだ飲み足りないので、椎名町へ。見慣れない店を見つけた。
もともとはマグロを中心に魚と惣菜を売っていた店だが、立ち飲み屋として新装開店したらしい。やはり料理の中心はマグロで、一人一回だけ注文できる「まぐろの枡盛り」(一九九円)は、複数の部位の大きなマグロぶつが五切れほど入ったサービス品。その他メニューは、まぐろねぎヌタ(四九九円)、ツナポテトサラダ(四九九円)、まぐろのユッケ(三九九円)など。酒は生ビールとビール中瓶が四八〇円、ホッピーセット三八〇円、熱燗三八〇円など。もう少し日本酒があればいいのだが。駅北口から、徒歩一分ほど。(2018.1.28)

豊島区長崎1-4-17
16:00〜23:00 日休

「やきとんひなた 池袋西口店」

classingkenji2018-01-07

今年の外飲み初めは、例年通り元旦の銀座ライオンの銀座七丁目店だった。そしてモツ初めは、まだほとんどのモツ焼き店が正月休みの二日に、「テング酒場」で。チェーン店じゃないかと思われるかもしれないが、これがよかった。ふだんも並みの店よりは美味しいモツ焼きを出すのだが、この日は正月休み明けということで仕込みができておらず、注文してから肉の塊を出して切って串に刺すという、「石松状態」だったのである。
そして本格的な外飲み初めは、この店で。快進撃を続ける「ひなた」グループのいちばん新しい店であり、自宅から最も近い店でもある。もともと、あの日本酒の名店「三春駒」があった場所に、昨年九月にオープンした。何度も来ているのだが、ここで紹介するのは初めてだ。モツ焼きも、煮込みも、そして鮮魚刺しも、「ひなた」グレードだ。日本酒も常時一〇種類ほどあり、この日は「名倉山」「澤屋まつもと」「姿」「篠峯」など。難点といえば、手作り感満点の椅子が、少々座りにくいことくらいだろう。池袋西口を出て、立教通りを入ってすぐの左側にある。(2018.1.6)

豊島区西池袋3-29-11 ファーストビル 2F
17:00〜23:30 土日祝16:00〜 無休

classingkenji2018-01-01

明けましておめでとうございます。
本年も「橋本健二の居酒屋考現学」をよろしくお願いいたします。

最近なかなか新しい店を開拓できず、また入ってはみたものの今ひとつ、ということも多く、なかなか更新ができていません。今年はもう少し、フットワークを軽くしていきたいものです。写真は、自宅のある池袋の初日の出です。(2018.1.1)

1月17日に、新著『新・日本の階級社会』が発売されます。2015年SSM調査と2016年首都圏調査という、2つの大規模調査のデータをもとに、新しい下層階級であるアンダークラスが、日本の社会を大きく変えつつある現実を描きます。ぜひ、ご一読を。もう予約できるようです。

青砥「小江戸」

classingkenji2017-12-19

この日は、国立歴史民俗博物館で開催されている「1968年」展を観に、京成線の佐倉へ。旧知の荒川章二さんを中心とする企画だが、当時の反政府活動へのシンパシーを感じさせる、国立らしからぬ展示で、見応えがあった。観客には、団塊世代と思われる男女が多い。一時間以上かけていっただけの甲斐はあった。
帰りは、当然居酒屋を探す。青砥駅で降りて、駅周辺を歩いて見つけたのが、この店。これは一歩踏み入れただけでそれとわかるほどの、久しぶりに出会った素晴らしい名居酒屋である。
メニューのメインはもつ焼き、そしてもつ煮込みにモツ刺しだが、魚の刺身や酢の物、揚げ物、野菜料理など、居酒屋料理はほぼすべて揃っている。白味噌ベースの煮込みは、シロを中心にいろんな部位が入っている。デフォルトは三五〇円だが、一人なら二五〇円の「小」で十分だ。マグロのすきみを注文したら、手作業ですいたことが一目でわかる、特上の一品がわずか二七〇円。串焼きは二本一皿で二二〇円。焼き色もよく、ジューシーで美味しい。早い時間から、常連らしい客が次々に入ってくる。
下町風ハイボールのグラスと中身に、見覚えがある。帰りに主人に聞いたところ、やはり立石の「江戸っ子」で働いていたとのこと。下町の新しい名店。また行ってみたいものだ。(2017.12.5)

葛飾区青戸3-39-3 優和ビル 2F
16:30〜22:00 (土15:00〜20:30) 日休

「寿司辰」

classingkenji2017-12-06

この日は、われらがヤミ市研究会と、ヤミ市に関心を持つ埼玉大学の面々の交流会ということで、新宿思い出横丁へ。埼玉大学の遠藤環先生が予約したくださったのは、横丁の中通り入口近くの「寿司辰」。もつ焼き専門の私は、初めての訪問である。
最初の刺身もよかったが、宴の半ばから続々と供される握りが素晴らしい。ホタテにウニを載せて短冊海苔を巻いたり、蒸し牡蠣に芽ネギを載せて短冊海苔を巻き紅葉おろしを載せたり、〆の海苔巻きはネギトロにたくあんを刻み込むなど、手のかかったものばかり。ヤミ市話も大いに盛り上がり、二軒目は第二宝来家へと向かったのだった。(2017.12.4)

新宿区西新宿1-2-7
17:00〜24:30 日祝休

中野「炙谷」

classingkenji2017-12-02

今年も中野のエクステンションセンターで、居酒屋の講座をやった。昨年は15:00〜16:30という中途半端な時間だったためか高齢者が多かったが、今年は19:00からなので、現役サラリーマンやワーキングウーマンも参加している。
終わったあとは、当然飲みに行く。この店は、以前紹介した「打越酒場」の二階で、経営は同じ。メニューもほぼ同じで、日本酒も同じものが飲める。しかもこちらは100人くらいは入れる大店で、大人数の宴会も可能。これほど大きくて日本酒が充実している店は珍しい。というわけで講座の最終日は、この店で受講生と懇親会をやった。受講者のほぼ全員が参加。さすがに酒好きばかりで、刺身と、名物のふぐ唐揚げ(四個で三九〇円という破格の安さ)を肴に、日本酒を次から次へと飲み干したのだった。(2017.11.21)

中野区中野5-56-2
16:00〜翌1:00 不定

低温調理の豚モツ刺

classingkenji2017-11-21

飲食店で生の豚モツ刺しを提供するのが禁止されて二年が過ぎたが、これに代わって低温調理の「モツ刺」を提供する店が増えている。注文すると出てくるのは、おそらく摂氏七〇度くらいで長時間熱した、火は通っているものの、ほんのり桜色だったり、生のような光沢があったりするもの。生刺しとはまったく別物で、毎回注文しようという気にはならないけれど、次善の策としてはやむを得ない。写真は、池袋に五号店まで構えるようになった「木々家」のメニュー。
食肉店には、生食できるグレードのものを販売する努力を続けて欲しい。消費者が自己責任で生食するのは自由だから。怖いのは、生食可能なグレードのものを提供する技術や配慮が、業界から失われることである。