橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

キリン「アイスプラスビール」

classingkenji2012-07-31

もう一軒入ったのだが、店そのものはどうということがないので、飲んだ酒を紹介。キリンの新製品、「アイスプラスビール」である。
日本では、どういうわけかエールが商品として定着しない。近年(といっても二〇年ほど前になるか)でもサッポロやアサヒが商品化したことがあったが、どちらもすぐに消えてしまった。地ビールでは数多くの製品が作られているが、地ビールファンの間で好まれているというレベルにすぎない。
なぜか。有力なのは、戦中から戦後にかけての統制経済で、ビールメーカーが独自商品を出すことができなくなり、すべてのビールが淡麗な淡色ラガーに統一され、これが日本人のビールへの好みを画一化してしまったから、という説である。なるほど、とも思うが、その後日本には世界からさまざまな食文化が流れ込み、その多くが定着していることを考えると、これで説明できるのかとも思う。
それはさておき、このビールはエールである。しかも、柑橘系の香りのするカスケードという品種のホップをかなりの量使っているようだ。成分として乳糖が添加されている。違和感のある人もいるかもしれないが、スタウトをはじめとして、英国ではしばしば行われていることだ。これをそのまま飲ませるのではなく、氷を入れて飲むように指定したのは、やはりキリンのスタッフが、日本人はエールのコクやフルーティさを好まないと考えたからだろう。
もちろん、冷やしてそのまま飲んでもいい。しかしそれなら「よなよなエール」の方がはるかに美味しい。このビールを飲んで美味しいと思った人は、まず「よなよなエール」そしてさまざまなエール系の地ビールを試してみることだ。(2012.7.10)