橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「もつ煮込み 沼田」

classingkenji2009-01-21

調布にあるという「やきとり処 い志井」という老舗のもつ焼き屋には、まだ行ったことがない。この店が、複数の業態を使い分けながら、各地に進出している。とくに、もつ焼き中心の立ち飲みチェーンのさきがけである「日本再生酒場」は、高度成長期のテイストというアイデアも含めて、今日のチェーン居酒屋にひとつの流れを作ったといっていいだろう。このい志井グループの拠点が新宿三丁目末廣亭周辺で、ここには異なる業態の三店が、すぐ近くに集まっている。そのひとつが、ここ「沼田」である。入り口の上には、赤く錆びた「キリンビール」の看板。少々あざといような演出だが、ここまで徹底すればユーモラスでもある。紺地に「もつ煮込み 沼田」と染め抜かれた暖簾をくぐると、細長い大きな木のテーブルがあり、ここに席を取る。インテリアはやはり高度成長期風だが、それが板についていて落ち着く。
この店の特徴は、もつ煮込みの種類が多いことで、劇辛味噌仕立て、味噌仕立て、塩柚胡椒仕立て、塩ニンニク仕立て、塩梅仕立て、カレー仕立てとある。ただし、塩味は日によってどれか一種類とのことなので、同時に食べることができるのは四種類。その他、しっぽの煮込みやタンの煮込みもある。コブクロ刺し、心臓ユッケなどの生ものもあり、もつ料理は何でも揃っているといっていい。ドリンクメニューの先頭にある「新宿ハイボール」(三九〇円)は、梅サワーのような味。ビールはキリンで、生四八〇円、クラシックラガー六五〇円。「オリジナル豚ビール」(七三五円)というのがあり、店員に聞いてみると「豚骨のビールです。……。冗談です、地ビールです」とのこと。そういえば「日本再生酒場」で、豚のラベルの瓶ビールを見たことがあった。若者のグループが多く、ついで中年男二人といった客がちらほら。近く移転するとのこと。といっても、末廣亭の近くであることに変わりはない。
ちなみにこの店、『おとなの週末』の今月号で取り上げられ、もつ焼き・煮込みの三つ星とされている。「山利喜」が二つ星、「宇ち多」が一つ星なのに、この店が三つ星とはあり得ない評価だ。あっさり味系としてはごく普通の煮込みである。(2008.1.10)

新宿区新宿3-7-6
月〜金 17:00〜24:00 / 土・日・祝 16:00〜24:00