橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

松戸「鳥孝」

classingkenji2010-07-16

「松戸酒場」で常連客たちが話題にしていたのを聞いて、相当の老舗らしいと知ったのが、この店。一見すると居酒屋というより料理屋のようにも見えるが、れっきとした大衆酒場である。白地に「鳥孝」と書かれた暖簾をくぐると、八人掛けのテーブルが三卓。数人のグループ客はもちろん、カウンター感覚で一人客も入りやすい造りだ。店は三階まであり、次々にやってくる客が階段を上っていく。
酎ハイ三一〇円とあるのを注文すると、何と元祖のエキス入り下町風酎ハイが出てきた。これは、うれしい。付け出しは、小鉢に入った茄子といんげんの煮物で、鳥の出汁を使っているらしく、たいへんおいしい。焼き鳥は、二本で三〇〇円または三八〇円と、一見したところ安くはないようだが、実はサイズが普通の二倍近くある。焼きたてでジューシー、味もいい。メニューをみると、鳥の刺身が「刺六〇〇円」「造り七八〇円」の二種類ある。聞いてみると、「造り」の方はレバーとささみが入っているのだとのこと。当然、こちらを注文する。出てきたのは、皮目を焼いたモモを加えた三種類が黒皿に所狭しと並び、優に二人前はあるという一品。なかなか減らないので、酎ハイを二回お代わりし、だいぶ酔いが回ってしまう。
壁面には、白のアクリル板に見事な墨文字が入った、蛍光灯看板式のメニューがある。風格があり、何より読みやすい。客は、地元の中高年が多い。ハンチングをかぶった七〇代の男性が、飲みながら藤沢秀行の本を読んでいる。ジャンパー姿の五〇代男性は、鰻を食べながら新聞を読む。七〇代の男性が、孫のような年齢の若者を二人連れて和やかに飲んでいる。常連客はレバ刺しだけでも注文できるらしく、後から入ってきた白いポロシャツ姿の六〇代男性が、さっそく注文した。
名店といっていいだろう。松戸へ行くことがあったら、また寄ってみよう。(2010.7.3)

千葉県松戸市本町19-21
16:00〜23:00 無休