橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

四ツ木「吉か」

classingkenji2007-07-08

「ゑびす」の次は、あらかじめ目をつけておいた「吉か」。藤原さんの酔わせて下町にも取り上げられていて、自家製ブレンドの酎ハイというのに惹かれたので、場所を確認しておいたのである。店に入ると、左側がカウンターで、奥にはテーブル席。まずは酎ハイ(三二〇円)と焼きとんお任せ四本セット(三八〇円)を注文。酎ハイは、天羽乃梅を使ったものとさほど味は変わらない。二〇円高い「健康酎ハイ」というものもあり、これは漢方をブレンドしたものとのこと。飲んでみると、かすかに朝鮮人参のような味がした。
カウンターには上着にノーネクタイの五〇代男性、ドレスシャツの四〇代男性、アロハ姿の四〇代男性、ドレスシャツの五〇代男性と、長髪の四〇代女性、そして二〇代男性二人組。奥のテーブルには、子ども二人を連れた三〇代男性二人組がいた。この店も、ネクタイの客は皆無だが、ちょっと硬い話題が混じるところが「ゑびす」と少々違うところか。客はそれぞれ常連の顔見知りのようで、私を挟んで会話が始まり、あっという間に私も話に引き込まれてしまった。下町ではよくあることである。「こち亀」の両津勘吉に似た隣の男性に「似てますね」というと、「よく言われる」とのこと。いや、性格も似ておいでのようで、ついでに言えば連れの女性は、やはり「こち亀」の麗子に似ていらっしゃる。そんなわけで、すっかりなじんでしまい、酒の値段など記録できなかった(笑)。
実はこのあと、駅の南側に回ってさらに二軒行き、それぞれでハイボールを飲んできたのだが、ぶれた写真が何枚かあるだけで、記憶が少々怪しい。最後に入った「丸福」は、エキス入りの焼酎を氷入りのグラスに注ぎ、これとは別にニホンシトロンの炭酸を瓶ごと出すという店。いちばん正しい酎ハイの流儀というものだろう。(2007.7.6)