橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

さらば人世横丁

classingkenji2008-06-03

人世横丁ができたのは一九五一年のこと。池袋駅東口のヤミ市の移転先として生まれてから、六〇年近い歴史を刻んできたが、とうとうこの七月に、再開発で姿を消すことになった。六月からしばらく日本を離れるので、ヤミ市横丁研究所の井上さんと待ち合わせ、人世横丁見納めの会をすることにした。場所は、まず立ち飲みの「げんき」、そしていつもの「最上」。客は最初は二人だけだったが、しばらくすると、この横丁に何十年も通ってきたらしいスーツ姿の七〇歳近い男性三人組がやってきて「人世横丁も七月までか……」といいながら、次々にカラオケで歌い出す。私も、生まれて初めて「夜の池袋」を歌ったのだった。
♪にげてしまった 幸福は しょせん女の 身につかぬ
お酒で忘れる 人世横丁 いつまでも いつまでも
どうせ気まぐれ 東京の 夜の池袋
(2008.5.31)