橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「人世横丁ビル」?

classingkenji2009-06-18

人世横丁のあった場所の近くに、新しいビルができた。ここに、人世横丁にかつてあった店のうち何軒かが入居している。といってもほんの三−四軒で、ビルに移転したというほどの規模ではない。変に小ぎれいになった店もあり、当時を偲ばせるものはない。そのなかで、横丁の居酒屋という雰囲気を何とかとどめる「たけ松や」に入ってみる。実はこの店、横丁時代には入った記憶がない。
店員に尋ねたところ、このビルは、もともと駐輪場で、あまり使われていなかった土地に建てられたとのこと。周囲は、ポルノ系および腐女子系ショップが多い場所だ。ヱビスのグラスが五〇〇円、サッポロラガーの中瓶が五五〇円、モツ煮込みは五五〇円、魚料理がいくつかあって、四〇〇円から七〇〇円。焼酎はいろいろ揃っているが、基本的にはごく普通の店。普通の店に何ともいえないオーラをまとわせるのが、人世横丁だった。横丁がなくなってしまえば、店の魅力もかなりの部分は消え失せるのだろう。
ノスタルジーでこんなことを書いてしまったが、悪い店ではない。入ってみたいと思わせる雰囲気はあるし、味もまあまあ。たまには来てみようかなと思う。

豊島区東池袋1-23-8