橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

端田晶『小心者の大ジョッキ』

恵比寿ガーデンプレイスに、恵比寿麦酒記念館がある。玄関を入ると、横に広い半円形の階段を下りたところに、グランドピアノを備えたホールがある。予約すれば演奏することもでき、休日ともなれば、ミニコンサート気分を味わおうというピアノ愛好者たちが集まる。ホールの左手から始まる展示は、日本におけるビールの歴史、ビールの製法、世界のビールなどを簡潔に解説していて、なかなか楽しい。しかし、いちばんの楽しみは、最後に位置するテイスティングルームである。ヱビス、エーデルピルスなどのプレミアムビールを一杯二〇〇−二五〇円で飲めるのもいいが、初めて行ったなら、まずはヱビスと黒ヱビスに、市販されていないヴァイツェンやエールなど四種を組み合わせたテイスティングセット四〇〇円がお薦めだ。
さてこの著者、恵比寿麦酒記念館の館長である。館長と言うからには、役員経験者の閑職かと思いきや、一九五五年生まれだそうで、私とたいして違わない。文章は軽妙。一から九までの数字で日本のビールについて論じてみたり、貝原益軒の『養生訓』を引きながら燗酒の味について論じたり、さらには草野心平のエッセイを糸口に居酒屋の人間関係について論じたり。豊富な営業経験も背景にしながら、縦横に論じて話題は尽きることがない。ビール好きなら、読んで損はない。

小心者の大ジョッキ

小心者の大ジョッキ