橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

高円寺「大将本店」

classingkenji2007-01-20

今日は、センター試験の一日目。早朝からの長時間労働で、これじゃビールでも飲んで帰らないとやってられないよ、というわけで大学からバスで高円寺へ。行ったのは、南口の真ん前にある「大将本店」。一階はカウンターが八席とテーブルが四卓。二階もあり、ビニールで通りと仕切られた野外にも、席がいくつかある。ビニールをくぐり、ガラス戸を開けて店内に入ると、煙がもうもうと立ちこめ、焼き鳥の香ばしいにおいが食欲をそそる。串は平均一〇〇円ほどで、シロやレバは九〇円、つくねや豚バラは一一〇円など。まずは好物のシロとカシラ、そしてビールを注文。ビールは中ジョッキと大瓶(サッポロラガー)が四五〇円と安い。サワー類は三三〇円。あくまでも大衆価格の店だが、惜しいことにホッピーがない。この店の串焼きは、塩よりもたれの方が水準が高い。追加で頼んだシシトウは、名前とは違って鶏肉の小間切れの間にシシトウが少し挟まっているというものだが、両者のバランスがよく、たれの味と相まってなかなか美味しい。
一階の客は全部で一三人で、カジュアル姿の三〇才代カップル二組、二〇代のちょっとおしゃれ系カップル、学生三人組のうちの一人、合計四人だけが女性。学生は男女一人ずつがリクルートスーツで、もう一人はジーンズにトレーナー姿。リクルートスーツを着た男の方が、ラフな方の男を「それはNEETへの道だ」などとからかっている。他にいるのは、三〇代の外国人男性二人組と、カジュアル姿で二〇代と三〇代の男性一人客。大衆的な雰囲気ながら、客層がやや若いところが高円寺風か。スタッフはみんな若く、ユニフォームの黒いトレーナーは共通ながら、髪型は長髪を束ねたり、タオルを巻いたり、ねじり鉢巻きをしたりなどさまざまで、若者らしさが漂う。小一時間もいると、服が煙で燻されてくる。勘定は、串八本、三八〇円のブリ刺(これはちょっと生臭く、いただけなかった)、ジョッキ一つと大瓶二本で、メニューの合計額とぴったりの二五三〇円だった。このあたりでちょっとビールと焼き鳥というときには、いい店である。(2007.1.20)