橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

高尾山口「橋本屋」

classingkenji2011-12-06

この日は、高尾山へ紅葉を見に行く。まだ時期が早いのは分かっているが、11月下旬は時間がとれるか分からないので、この日にした。週末だから人出が多い。といっても、紅葉狩りの後の酒と料理に期待して遅めに出かけたので、大部分は帰りの客だ。
紅葉はピークには遠いが、それなりに美しい。今日は曇り気味で、遠くが見えなかったのが残念。高尾山の山頂まで登ったのは、何年ぶりだろう。ミシュラン三つ星は冗談だとしても、新宿からわずか一時間の場所だから、東京にとっては貴重である。
山を下りたのは六時過ぎで、いくつかある蕎麦屋、蕎麦料理屋は、すでに閉店したか、閉店準備中。唯一、営業時間が長そうだったこの店に入ってみた。一階は細長い座敷と厨房。二階は大広間だが、向かって左側は畳の上にテーブルといすを置いたテーブル席になっていて、ここに座ることにする。この店は、当たりだった。鴨の醤油焼き(二一〇〇円)は柔らかく、臭みがなく、味は濃厚。岩魚の塩焼き(一二六〇円)は、じっくり時間をかけて焼いたものが二尾。適度に水分が飛んで凝縮した味。日本酒には最高だ。海老しんじょと椎茸の併せ揚げ(八四〇円)は、懐石の一品のようだった。酒は日本酒が七種類と焼酎が十数種類。酒メニューのトップが「越乃寒梅」と「雪中梅」というのは時代錯誤だが、「久保田」「黒龍」「麒麟山」とあって、日本酒好きにも何とか対応できる。しかし高尾まで来たのだから、ここは地元の「桑乃都」をいただこう。この近辺は、かつて養蚕で栄えた地域。だから、こんな銘の酒がある。アル添酒クラスだと思うが、燗酒は十分美味しい。
地元の人が会食に使うような店だと思うが、高尾山でゆっくり飲んで食べようと思ったら、この店はおすすめ。一品料理は安くはないが、量が多く、席料などもないので、会計はリーズナブルだ。(2011.11.5)

八王子市高尾町2292
11:30〜20:00 不定