橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ダブリン「チェコ・イン」

classingkenji2008-06-19

アイルランドは、ヨーロッパ諸国でもっとも貧困率の高い国である。OECDのレポートによると貧困率は15.4%で、先進国の中では米国に次いで高く、OECD諸国全体でもメキシコ、米国、トルコに次いで4番目である。ちなみに5番目に高いのは日本で、15.3%。新聞等では「日本の貧困率は世界で2番目に高い」と報道されたことがあったが、これは正確には「主要先進国の中では」ということで、人口400万人のアイルランドを小国として除外した場合の話である。アイルランドの所得水準が低いわけではない。また、所得格差を示すジニ係数は0.304で、OECD諸国の平均程度と、けっして高くない。にもかかわらず貧困率が高いというところは、日本と少し似ている。
ちゃんと調べたわけではないので断言できないが、貧困率が高い理由のひとつは、海外にいたアイルランド系の人々や、外国人労働者流入していることだと思われる。街を歩いていても、外見や話し言葉から東欧系とわかる人がたくさんいる。とくにポーランド系が多いのか、ポーランドの食品やビールなどを売る店をよくみる。チェコ系の人も多いらしく、そのたまり場になっているらしいパブが、ここCzech Innである。この日はEuro2008チェコ対トルコの試合が予定されていたためか、入ったときにはほぼ満員。過去の試合のビデオをみながら、試合開始を待っている客が多かった。多くの人が飲んでいるのは、樽からポンプで注がれるピルスナー・ウルケルのドラフト。日本でも瓶入りはよくみかけるが、ドラフトにはお目にかかれない。初体験のこのビールは、大量に使われたザーツホップのスパイシーな香りとシャープな苦みがすばらしい。サッカーの試合が始まる少し前に店を出たが、入れ替わりに予約のグループ客が入り始めた。あとでわかったが、試合は0-2からトルコが大逆転して3-2で勝ったとのこと。店内が大変な状況だったであろうことは、容易に想像できるというか、あまり想像したくない。(2008.6.15)