橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ダブリン「ギネス・ストアハウス」

classingkenji2008-06-18

ダブリン市中心部の西側に、ギネスビールのセント・ジェームズ・ゲート醸造所がある。ここに併設されているのが、このギネス・ストアハウス。ギネスビールは、世界最大のスタウト・メーカー、というよりエール・メーカーである。何種類かのギネス・スタウトの他、スミスウィックスというアンバー色のエール(海外での商品名はキルケニー)、ハープという淡色ラガービールも製造しているが、生産の大部分はもちろんスタウト。スタウトにしては淡い味わいで、スムーズな口当たりが特徴。窒素添加で人為的にクリーミーな泡を作り出したり、ボトル製品では加熱処理をするなど、ビールフリークには邪道とみえるところがないではないが、いいビールであることは誰も否定できまい。
ギネス・ストアハウスは大変よくできた一種のテーマパークで、工場の真ん中の輸送ゲートのそばの赤レンガ壁に設けられた入り口から入場させるところからして、心憎い演出である。いまやダブリン最大の観光名所で、チケット売り場には長蛇の列。行くなら、前売券を事前に入手しておいたほうがよさそうだ。展示はギネスの生い立ちから原料、製造工程と進み、さらには環境問題やアルコールと健康、広告とマーケティングの歴史など内容は豊富。そして最後には、ダブリン市内の風景を360度のパノラマで一望できる屋上の展望台での、1パイントの試飲が待っている。写真で見るように、試飲場は超満員。ここで飲んだギネスは、いっさいにごりのない澄み切った味わいで、これまで飲んだ中で最高の一杯だった。ただし、入場料は14ユーロ(約2300円)と強気の設定。日本国内のビール工場が、ちゃんと試飲させるにもかかわらず入場料を取らないのとは大違いだ。展示の質はたしかに高いが、世界的なギネスのブランドイメージ、そしてダブリンの観光地としての知名度があってのことだろう。
下の階にはレストランもあり、食事をしながら飲むこともできる。ギネスはもう飲んでいたので、ここではキルケニーを注文したが、「洋梨の香り」と形容されることもあるフルーティーな香りが素晴らしかった。ギネスの味のスタンダードを舌に覚え込ませることができるという点を考えれば、高い入場料を我慢してでも行く価値はありそう。工場周辺の散歩も楽しい。(2008.6.14)