橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「百姓亭」

classingkenji2007-03-26

経堂は道が複雑で、直角に交わるような場所が少ない。これは、世田谷区全体にいえることである。もともと、区画整理される前の農道がそのまま道路になっているわけだから、仕方がない。だから、慣れない人はすぐ道に迷う。とはいえ、基本は駅の北側に伸びるすずらん通りと、南に延びる農大通りである。私の家に近いすずらん通りは、閉店が相次いで部分的にシャッター通り化しているが、農大通りはまだまだ元気。飲食店も多く、学生向けの安い店から、かなりグレードの高いイタリアンやフレンチ、和食の店までが軒を並べる。良い居酒屋も多いが、今日行ったのはここ、「百姓亭」。向かい側にL字型カウンター、手前にはテーブルが八つ。奥には座敷もある。
魚介類が中心で、種類は多い。今日のおすすめは、寒ブリ、インド鮪、地蛸、白魚など。刺身の盛り合わせは、一人前一五〇〇円になる。インド鮪中とろは、適度に脂の乗ったとろける味わい。寒ブリも東京にしては美味い。この日の金目鯛刺は、仕入れの関係かずいぶん貧弱だったのが残念。珍しいところでは、ししゃもの稚魚の「ちりめんししゃも」などというものもある。その姿はまさにししゃもだが、軽く香ばしい味が日本酒に合う。日本酒と焼酎がそれぞれ数種類。ビールは四社のものを揃える。
いつも賑わっていて、入れないことも多い。今日の客は、サラリーマン三人組、男の子を連れた四〇歳ほどの夫婦、カウンターで店の人として親しげに話す五〇代女性、三〇代のカップルなど。壁際のテーブルには、外国からのお客さんを囲む農大の先生たちが八人ほど。農大らしく、みんなラフな服装をしている。学生が集まるにはぎりぎり高めの価格設定で、したがって大人にはリーズナブル。家と反対方向なのであまり来ないのだが、良い店だと思う。農大通りから、家系ラーメン「せいや」のところを左に入った左手。向かいには、和をアレンジしたフレンチの「コントワー松喜」がある。(2007.3.23)