橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

上野「とら亭」

classingkenji2007-10-17

上野は時々行くが、どうしてもアメ横から御徒町にかけての界隈に偏りがちだ。駅の浅草口から台東区役所にかけてのあたりは店もさほど多くなく、なかなか立ち寄る機会がない。このあたりには「ほし野」という名店があったはずだが、今もあるだろうか。
今日は、本の完成祝いということで、光文社の編集者と待ち合わせる。場所は、老舗のふぐ料理屋という「とら亭」。ふぐをコース料理で食べるのは久しぶりだ。まずは付け出しで、海老の幽庵焼き、蒸しアワビ、ふぐの昆布巻きなど。次は普通ならふぐ刺しというところだろうけれど、出てきたのはぶつ切りと称するもの。五ミリ厚くらいに切ったふぐの切り身を平皿に並べ、薬味をたっぷりのせた一品。刺身はどうも上品すぎて、ふぐのうまみが十分味わえない嫌いがあるが、これは食べ応えがあり、濃厚なうまみを味わえる。次は唐揚げ、そして鍋と雑炊で締める。これはという感動があったわけではないが、まったく不満は残らない。久しぶりにうまいふぐを食べた。いい店だと思うが、我々がいた一時間半ほどの間、客はついに現れなかった。場所が悪いのか、間が悪かったのか。先方のおごりなので、値段はわからない。ビールはヱビス、キリン、アサヒがあり、酒は大関大関も、ひれ酒にすればまあ飲める。ふぐの好きな人のために、住所を記しておこう。(2007.10.15)
東京都台東区東上野3丁目21−7福井ビル TEL 03-3835-7664