アメ横「大統領」
上野は新宿、新橋、池袋と並んで最大のヤミ市街の一つだったが、その中心をなすアメ横は、他のヤミ市とはやや起源と経緯が異なる。他のヤミ市の多くが、新宿の尾津組・和田組、新橋の松田組などのように「組」支配の色彩が強く、「組」と中国・朝鮮人との対立が絶えなかったのに対し、アメ横は東京都が国鉄のガード下を、下谷引揚者更正会という引揚者団体に貸し出したことから始まる。最初は芋を原料にした飴を売り出して流行ったことから「アメ屋横町」と呼ばれたが、後には密輸品や米軍の横流し物資を大量に扱ったことから「アメリカ横町」という意味をも帯びることになった。「組」による不法占拠ではなく、正当に借り受けた場所だから、他の場所でヤミ市の撤去が進むようになってからも発展を続け、今でも都内有数の商店街となっている。このあたりの経緯については、長田昭の『アメ横の戦後史』に詳しい。ちなみにヤミ市起源の飲食店にモツ焼き屋が多いのは、食料統制の厳しかった当時にあって、モツは統制品ではなかったからである。
アメ横の周辺や隣接する御徒町界隈には多くの居酒屋があるが、アメ横そのものには居酒屋は多くない。今日、二軒目に訪れたのは、アメ横の中心部にある「大統領」。朝から飲める店として知られ、もつ煮込み(四二〇円)ともつ焼き(五本四五〇円)を中心に、キムチ、焼き魚など、あまり手のかからない肴をいろいろ出す。酒は生ビール大(アサヒ)が七〇〇円、瓶ビール(キリン)が五八〇円、ホッピー四三〇円、焼酎がダブルで四〇〇−六〇〇円、サワー類三五〇円など。なんと越乃寒梅(六五〇円)、雪中梅、八海山(各五〇〇円)がある。客は、サラリーマンと自営業者または労働者風が半々くらいか。時間帯によっても客層が変わりそうだ。初めて入るときは、ちょっと勇気がいるかもしれないが、大衆酒場好きならすぐにとけ込めるだろう。(2007.10.15)
アメ横の戦後史―カーバイトの灯る闇市から60年 (ベスト新書)
- 作者: 長田昭
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2005/12
- メディア: 新書
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