橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「おまた」

classingkenji2012-07-05

池袋には、昔から日本酒の美味い店が多い。その発端とされるのは、かつて池袋にあった地酒専門の酒販店「甲州屋児玉商店」である。主人の児玉光久が、酒蔵をめぐっては良酒を発掘し、また酒蔵を育てた。その酒を出す店が池袋に現れ、こうして池袋は日本酒のメッカとなっていった。児玉は一九八七年に亡くなり、店も廃業したが、そのDNAは受け継がれ、池袋にはいい日本酒を置く店が次々に生まれるようになった。
この店も、その一つ。私は、今日が初めての訪問。小さな店で、カウンターが一〇席ほどの他、五人くらいが限度と思われる小上がりがあるだけ。日本酒は種類が特に多いというわけではないが、厳選されている。週ごとに新入荷の酒を別メニューに載せていて、そこから「天青・純米吟醸純粋熊本九号酵母生詰」を注文すると、その場で封を開けてくれた。フレッシュで、香り、旨み、甘味すべてに優れる。そのあと「屋守・雄町純米吟醸無調整生」「刈穂・山廃純米生原酒番外品」といただいたが、いずれも素晴らしかった。料理も酒と同じように種類は多くないが日本酒に合うものが揃っている。〆サバ酢味噌がけは、生に近い鯖の味を酢味噌が引き締める。鱧の天ぷらは、身が分厚くふっくらと仕上がっている。
駅から見るとメトロポリタンの反対側の、住宅地に近い場所にある。人気店なので、予約した方がいい。(2012.6.26)

豊島区西池袋1-7-8
17:00〜22:30(ランチあり) 日祝休