橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

池内紀『今夜もひとり居酒屋』

ドイツ文学者にして街歩きの達人・池内紀センセイの新著。『中央公論』に連載されていったエッセイの単行本化だが、連載時のタイトルは「居酒屋の哲学」だったらしい。哲学らしいところはたしかにあって、そのメインは居酒屋、または居酒屋の個々のアイテム、客、主、店員などをカテゴリー化していくことだろう。そのほとんどは三分類だが、弁証法とは関係なさそうだ。
たとえば、品書きにはA黒板タイプ、B表札タイプ、Cビラタイプ、がある。お通しには、A安直型、B流用型、C入念型がある。そして居酒屋の特性には、A素材性、B郷土性、C工夫性がある、など。けっこう腑に落ちる分類が多い。客や主の観察もなかなか鋭い。さすが文学者というべきか、人間観察の達人でもあるようだ。店名などは出てこないから、ガイドブックとしての機能はほぼ皆無。読んで楽しむ本である。

今夜もひとり居酒屋 (中公新書)

今夜もひとり居酒屋 (中公新書)