橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「鉄火場」

classingkenji2009-05-07

というわけで、最初に入ったのはこの店。このあたりでは、大きい方の店だろうか。店先の看板には、「やきとり もつやき 一品料理」とある。入るとすぐ左に四人掛けのテーブルが二卓あり、その先に一直線のカウンター一二席。奥には八人くらい座れそうなテーブルがある。飴色に熟成した大衆酒場といった趣で、私の好みには合う。
メニューも私好みで、看板の通り、串焼き中心ながら刺身など一品料理も豊富だ。串焼きは一二〇円が中心で、刺身や焼魚などは五〇〇円くらいから、いろいろ揃っている。生ビール、ビール大瓶は六〇〇円、酎ハイ・サワー類は三五〇円、ホッピー四〇〇円、日本酒は二合で五五〇円、土佐鶴・八海山などの地酒は、一合四五円から。もつ焼きの味は、標準的。鰺のなめろうは、新鮮だが少々水っぽかった。
今日は連休の谷間のせいか、金曜日の新橋にしては人通りが少ない。店員の一人は、ずっと店先に立って客寄せをやっている。この店も、埋まった席は半分くらいで、スーツ姿が六割にカジュアルが四割くらい。この日のこの時間に新橋で飲んでいるくらいだから、家族サービス旅行などの予定のない人たちなのか。
ひととおり飲んで会計を済ませ、二・三軒ほど隣にあったちょっと気になる店構えの店をガラス戸越しにのぞいてみると、店の女将が目ざとく見つけて駆け寄ってきそうになったので、あわてて離れた。銀座の隣の都心でありながら、場所柄もあり高い値段は取れないから、経営は楽ではあるまい。しかも新橋あたりで飲んでいた団塊サラリーマンは、もう引退だから客自体が減っていくかもしれない。神田もそうだが、新橋はあと一〇年くらいでかなり変わるかもしれない。せいぜい、今の姿を記録しておきたいものである。(2009.5.1)

港区新橋2-9-12
17:00〜1:00(土23:00) 日祝休