橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

桜上水「あおい」

classingkenji2009-03-17

家で原稿を書いているとき、すでに書く予定だったこと、朝までに考えついたことを中心に書き進むのだが、こうした手持ちの材料を使いつくすと、進みが悪くなる。材料が手元に残っていても、書きやすい材料を使ってしまうと、残りの使い方、配列などが決まらず、頭の中がこんがらがってくる。こんなとき、居酒屋へ行く。
今日はふと思い立って、自転車で桜上水へ。私の自宅から京王線へ行く場合、下高井戸と桜上水はほぼ等距離なのだが、下高井戸の方が店が多いので、こちらはあまり行ったことがなかった。荒玉水道通りという道路をまっすぐ行けば、一〇分くらい。店はあまり多くないが、駅の少し手前の裏手に見つけたのが、この店。店先の黄色いちょうちんには「もつ煮込み」「やきとり」の文字。
もつ煮込み(四二〇円)は、牛モツだけを合わせ味噌の汁で煮込んだもので、いい香りがし、弾力は残っているのにすぐかみ切れるモツは、じっくりと肉の旨みを感じることができる。他に、激辛(四七〇円)、豆腐入り(五三〇円)、キムチ入り(五六〇円)などとバリエーションがある。串焼きは豚、鳥、野菜などいろいろで一一〇円より。カシラは普通だったが、シロは分厚く柔らかく濃厚な味でタレも良く、素晴らしく美味しかった。ビールはキリン一番絞りで、中生五三〇円、大瓶六一〇円。サワー類四二〇円、日本酒は白瀑、獺祭など五八〇−六三〇円、焼酎は兼八、海、男猿など四七〇−五〇〇円。魚料理もいろいろあり、刺身三点盛り八八〇円など。近所にあったら、きっと常連になるだろう。いや、十分近所だから、常連になってしまうかも、と思わせる。いい店を見つけた日は、気分がいい。
ちなみに原稿は──なんとか次の日に何を書けばいいかの見通しは立ったから、収穫はあったといっていいだろう。(2009.3.15)

世田谷区桜上水4-7-5