橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねえ」(弓削太郎監督・一九六二年)

classingkenji2008-05-03

青島幸夫原作で、川口浩川崎敬三が演ずる新入社員を中心に、当時のサラリーマン風俗が描かれる。川口浩は農家の息子で、家族は「早う出世してな。お前の学資に売り払った田んぼを買い戻すんだぞ」と送り出す。川崎敬三は水上生活者の息子で、やはり家族は「お爺もお父もだめだったけど、お前だけは陸の上で住むんだぞ」「みんなを早く陸の上の家に呼んどくれよ」と送り出す。家族ぐるみでの立身出世願望のストレートな表現だ。OLたちが入社早々の新入社員たちの品定めを始める様子は、なかなかリアルだ。当時は男子社員が大卒、女子社員は高卒が多数派だろうから、入社二−三年目のOLからみれば、年齢的にもちょうどいいのだろう。入社時には、背広が買えずに学生服のままの新入社員が何人かいる。これは、一九七〇年頃までのサラリーマンの回想には、よく出て来る話である。
新入社員たちも、上司たちも、よく酒を飲む。場所は女性のいるバーと居酒屋で、酒はハイボール、ビール、日本酒。上司のハナ肇は、植木等ら学友たちと飲んで酔っぱらい、新入社員も巻き込んで、しまいにはトラ箱に収容される。「東京泥酔者保護所」の文字が出てくるが、本物だろうか。トラ箱はかつては鳥居坂日本堤、早稲田、三鷹の四ヶ所にあったが、二〇〇七年末までにすべて廃止された。川口と川崎の二人は、初めは社長令嬢と結婚して重役になることを夢見るが、最後は居酒屋で、ほどほどの相手にプロポーズをする。ほどほどの上昇移動先として、普通のサラリーマン家庭があるわけだ。DVDが出ていて、下のリンクが最安値のようだ。ビデオならYahooオークションでさらに安く入手できる。
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