橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

東武練馬「棟梁」

classingkenji2008-04-03

上質の魚料理を出す居酒屋として、一部ではけっこう有名な店だが、私は今回が初めて。六時少し前に入ったのだが、すでにカウンター席は予約でほぼ満席。端の一席だけ空いていたのに、座らせてもらった。テーブル席も、すでに客がいるか予約されているかという状態。私のすぐあとに顔を出した人が満席であきらめて帰ったくらいで、なかなか入れなさそうだ。入った左側がL字型のカウンターで、七席。右側がテーブル席で、三卓。カウンターの中はただの通路のようなもので、厨房は奥にある。ホワイトボードと短冊にメニューが所狭しと書かれているが、その中身はなかなかのもの。まぐろ中トロ(一三五〇円)、活天然スズキ刺(一三〇〇円)、小樽の活甘エビ刺(九八〇円)、活サザエ刺(七八〇円)、特上鯨刺(八九〇円)、帆立貝たるたる焼(六八〇円)、活穴子天ぷら(八七〇円)、同白焼(七五〇円)、銀だらゆず焼(六八〇円)、生ホタルイカ天ぷら(七八〇円)、くじらステーキ(一八〇〇円)、魚介類ブイヤベース(九八〇円)などといった具合。見かけは大衆的な居酒屋だが、本格的な海鮮料理店である。雰囲気も悪くない。ご主人は奥で料理に専念し、おっとりした感じの奥さんが客に応対するという分業が、うまくいっているようだ。江戸前という穴子の白焼きは、絶妙な焼き加減で、味が濃厚。鯨の刺身は、きれいな小豆色で筋がなく、臭みも皆無で、これまで食べたものの中でベストかもしれない。酒は九平次、真澄、黒竜、初孫など数種類。九平次は生吟醸で、香りがよく自然な甘みがあって、穴子に合う。東武練馬駅の南口から旧川越街道の商店街に出て左へ進み、ファミリーマートの角を右に曲がって少し歩いた左側。沿線以外の人には不便な場所だが、美味しい魚が食べたいときには、足を伸ばしてもいいかなと思う。予約した方がよさそうなので、電話番号を書いておく。(2008.4.2)

練馬区北町2-19-9
03-3934-3566
17:30〜24:00 月休