橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

金沢のヤミ市

classingkenji2008-01-09

戦災を免れた古都・金沢でも、終戦直後にはヤミ市が簇生した。当時を知る人の話と、金沢市立図書館で調べた結果を総合すると、ヤミ市があったのは、つぎの4ヶ所である。(1)金沢駅前。再開発で、現在はホテル日航金沢になっている。ただし、駅前周辺を総合的に発展させるというよりは、30階建てのホテルを建てただけに終わっていて、周囲には取り残されたような商店や飲食店が点在している。このほか、駅周辺には何カ所かヤミ市があったらしい。かつては駅ビルの地下に「ステーションデパート」というヤミ市起源と思われる零細商店の集まる場所があった。(2)尾山神社前。ここには、いまでもヤミ市の雰囲気を色濃く残す「尾山飲食店街」があるが、最近は空き家が目立ってきた。(3)香林坊の裏手にある鞍月用水の上。当時の写真を見ると、用水に蓋をする形で商店が並んでいる。再開発で撤去された。(4)片町の裏手。現在でも、木倉町の一部と新天地の飲食店街として残っている。
写真は、木倉町の「やきとり横丁」である。ほとんどヤミ市そのものではないかとさえ思われる木造の粗末な居酒屋街で、どの店も外から中の様子をうかがうことができない。ここまでディープな居酒屋街になると、多少は地元のことを知っている私でも、なかなか入りづらいものがある。ご飯をくれる人がいるのか、通路に黒猫が一匹、行儀よく座っている。このあたりは空き家も少なく、繁盛している店が多い。いまでは少なくなった活気あるヤミ市横丁のひとつといえる。