橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

立石「秀」

classingkenji2014-08-07

京成線でここまで来たからには、立石にも寄らなければ。立石の街をひととおり徘徊した後、行ってみたのは、この店。立石は日曜休みの店が少なくないけれど、ここはモツ焼系の店で日曜営業の代表格だろう。
まずは豚モツ刺身三点盛り(五〇〇円)と、ハイボールをいただく。刺身は昨日仕入れたのだろうけれど、十分美味しく、量もある。ハイボールはもちろん下町系ハイボールだが、酸味がやや強めで、実にさわやか。この店は樽生ホッピーが美味いと評判なので、二杯目に注文してみた。泡がとても細かい。ゆっくり飲んでいても、なかなか消えない。その昔、東京駅の八重洲口に「灘コロンビア」というビヤホールがあって、店主の新井徳司さんの注ぐビールは、特殊なノズルなど使わないのに泡が恐ろしく細かく最後まで消えないので、飲んだ後のグラスには等間隔に泡の跡が付いていた。ちょっとそれを思い出すくらい、素晴しいホッピーだった。
この店、日本酒も何種類か置いていて、この日のメニューには何と「農口・純米酒」があった。かの「菊姫」、そして「常きげん」の農口尚彦杜氏が、いったん引退した後に立ち上げた農口酒造の製品だ。入手しにくい酒でもあり、いい機会だから注文してみた。「菊姫」とも「常きげん」とも違う。農口酒の特徴ともいえるほのかなひね香が感じられず、かすかにフルーティー。さらりと軽快で、エステル香がただよう。市場価格はかなり高めなので、自分で一升瓶を買おうとは思わないけれど、一度は飲んでおいていい酒だろう。
というわけで、久しぶりの立石散策は終わり。世田谷に住んでいた頃に比べると、ずいぶん近くなったから、時々訪れたいものである。(2014.7.6)

葛飾区立石7-2-11 
17:00-22:30 木休