橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

森下の山利喜ビル

classingkenji2011-12-24

何年ぶりかで山利喜を訪れてみたら、ビルになっていた。古い建物を改装し、吹き抜けのある二階建てにして、雰囲気を残したままうまく店を広げたなと思ったのは、何年前のことだったか。ところが、今度は完全な建て替えである。五階建てのビル、しかもギリシャの神殿風だかなんだかよく分からない装飾のついたビルの中だから、大衆酒場の情緒も何もあったものではない。
名物の煮込みの味はというと、明らかに落ちている。いや、落ちたような気がしただけかもしれないが、大衆酒場は居心地と気分も味のうちである。心なしか客層も代わり、ぎすぎすした雰囲気がただよう。これも気分の問題かもしれないが、気分は居酒屋の最重要の要素のひとつである。東京の誇るあの名居酒屋は、すでに消滅したようである。(2011.12.1)

江東区森下2-18-8
17:00〜23:00