橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

『美味しんぼ』106・107巻

今回は、『偉大なる名人・名店』シリーズを収めた二巻が同時発売。グルメガイド的要素の強い巻だから、まとめて出すというのは、マーケティング的には正しいやり方なのだろう。実在の名人・名店に取材し、これをストーリーに昇華させるのではなくそのまま盛り込むなら、題材には事欠かないし、作者は楽だ。うまいやり方である。
ストーリーは九つだが、京都の美山荘のところで、連載初期の頃にあったのとほぼ同じストーリーが出てきたのには、あきれた。たしかに元の作品は、百巻を超える全体を見回しても出色の傑作だったが、いくら何でも使い回しはないだろう。
ほとんど酒が出てこないのにも、不満が残る。未成年も読むマンガだから、配慮せざるを得なくなってきたのかもしれないが、酒が題材となっているストーリーはほとんど皆無で、強いて挙げるなら、鮎の塩焼きにハーフ・アンド・ハーフのビールが合う、という話くらい。絵の中に酒が描き込まれているコマも、数えるほどしかない。以前は、こうではなかったはずだが。おでんや山菜中心の和食を、日本酒抜きでいただくなどということがあっていいのか。食文化の中に、酒が正当に位置づけられていない点、大いに不満である。

美味しんぼ 106 (ビッグコミックス)

美味しんぼ 106 (ビッグコミックス)

美味しんぼ 107 (ビッグコミックス)

美味しんぼ 107 (ビッグコミックス)