橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

石原たきび「酔って記憶をなくします」

深酒すると、ときどき記憶をなくす。後から考えて、仕事の話をしたような気もするが、どんな話だったか。何を頼まれたのか。いろいろ暴言を口にしたような気もするが、何を言ったのか。たいがいの場合は、たわいのない話しかしていないのだが、二日酔の気弱さもあって、けっこう気になるものである。
本書は、mixiのコミュに寄せられた抱腹絶倒のエピソードを集めたもの。埼玉に帰るはずが、気がついたら日本海が見えた。交番のお巡りさんにプロポーズしてしまった。夜中に起きて、全裸で物干し竿にぶら下がった。ファウンデーションのスポンジをクッキーと間違えて食べた。服を着たまま湯船につかっていた。居酒屋のトイレで三点倒立していた。目覚めたら、国会議事堂の前で寝て、一〇人以上の警察官に取り囲まれていた、など。世の中には、私にはとても敵わない猛者がたくさんいると知って、親近感を覚えるとともに、ちょっと安心したりする。酔って記憶をなくすことのある人は、必読。

酔って記憶をなくします (新潮文庫)

酔って記憶をなくします (新潮文庫)