橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

清水「金の字・本店」

classingkenji2010-09-08

翌日は、まだ日が高い時間から清水へ。まず入ったのは、駅前にある「金の字」。B級グルメブームに乗って生まれた清水の新しい名物はモツカレー、つまりカレー味のモツ煮込みだが、この店はその発祥の地である。二代目主人の杉本重義さんによると、モツカレーが始まったのは、店がまだ屋台だった五〇数年前のことで、軍隊でカレーの作り方を覚えた先代が考案した。煮汁は当時からつぎ足して使っている。
店は二年前に改修したから内装は新しいのだが、「己」字型の独特のカウンターを含め、造りは昔と同じだという。まるで古い大衆酒場の名店の、新築当時に足を踏み入れたような印象である。白木のカウンターは昔のままで、使い込まれた滑らかな手触りが、居心地の良さを生み出している。夕食のおかずにモツカレーを買いに来る客もいるから、早い時間に売り切れることもあるが、心配はご無用。丁寧に下拵えをした焼鳥と豚のモツ焼きは、東京で名店といわれる店と比べて遜色ないくらい美味しい。その上、一本九〇円からと安いのだからいうことなしだ。(2010.8.6)

静岡市清水区真砂町1-14 
17:00〜21:00 日祝休