橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

清水「河よし」

classingkenji2010-09-10

次に向かったのは、駅から五分ほど歩いた場所にある「河よし」。店構えと内装に関する限り、冴えない平凡な居酒屋だが、メニューが違う。手の込んだ料理が二〇数種類あり、どれを試してみても、長年料亭に勤めたという主人の腕が冴えわたる。
たとえば枝豆豆腐は、摺った地の枝豆を出汁で伸ばして固め、オリーブオイルを垂らしたもので、素材を越えた味わいがある。いかワタ煮は、身の細切りを裏ごししたワタとともに煮込んで水分を飛ばしたようだが、まったく臭みがなく、身とワタの旨みが渾然となって舌を包み込む。そして、ぱらりと揚げた桜えびを飯に混ぜ込んでふわりと握った、おにぎりの見事なこと。しかも量が少なめとはいえ、たいがいの料理の値段が二〇〇円から三五〇円なのである。日本酒は、正雪、磯自慢、葵天下、国香など選りすぐりの地酒の純米大吟醸クラスが、五勺のグラスで五〇〇円から六〇〇円程度。料理と酒を味わうたびに意識が覚醒するから、ほろ酔いの状態から先には進まない。驚くべき店という他はない。

静岡市清水区江尻東1-5-6
17:30〜23:30 日休