橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「大門」

classingkenji2010-06-30

池袋で飲むようになって、もう三〇年近くになるが、もちろん行ったことのない店も多い。この店は、以前から気になっていた店で、思い立って初めて入ってみることにする。沖縄料理の「おもろ」の並びの地下にある。中は、思ったより広い。奥にカウンター席が六席、手前に大テーブルと中テーブルが並び、四〇人近く入りそうだ。カウンター内に料理人が三人おり、フロアには店員が二人いる。
客は、ほとんどがスーツ姿のサラリーマンたち。しかも、特定企業(東武?)の御用達にもなっているようで、客同士が気安く声を掛け合っている。「よう、来てるな。しっかり飲めよ」「二時間前から来てるんすよ」「何で、人事部長がそれでいいのか。週に三回は来いよ。俺は平社員だから、そんなに来ないけど」。人事部長と、元上司の嘱託社員との会話らしい。
もつ焼きは、二本で二四〇円から二六〇円。味・量からいって、十分リーズナブルである。メニューは幅が広く、炒め物、揚げ物類が充実。ホッピーは四〇〇円、酎ハイは三八〇円。日本酒は珍しく「若鶴」で、一合五〇〇円。地下が出来たときから営業しているのだろう。古い壁とカウンターが、歴史を感じさせる。いい店だ。池袋で飲むときの選択肢のひとつになりそうだが、カウンターが狭いので、人といっしょに大テーブルに座る方が落ち着くかもしれない。(2010.6.11)

西池袋1-13-7 寿ビルB1F