橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

江古田「草加部二郎」

classingkenji2009-06-10

江古田には北口と南口がある。飲食店が多いのは南口の方だ。北口はどちらかといえば商店街で、商店や住宅の間に飲食店が点在している。これに対して南口は、洋食屋やラーメン屋、居酒屋などが駅の周囲に密集しているが、少し離れると急にまばらになる。そのまばらになったあたりにぽつんとあるのが、この店。久しぶりに通りかかって見つけた、もつ焼きの店である。ちょうど一年ほど前に開店したとのこと。
串焼きは、しろ、かしらなど定番の他に、ちれ、ぱい(乳房)、しきん(食道)などがある。一五〇円と少々高めだが、一本単位で注文でき、指定しない限り、塩、たれ、たれ味に胡椒風味など、店主が最適と考える味で出してくるようだ。味は、もつ焼き専門店として十分な水準だろう。生ビール(サッポロ)四八〇円、ホッピーは四〇〇円で、中が二五〇円、サワー類は三八〇円、日本酒四〇〇円など。料理は、もつ煮込み三二〇円、レバ刺し四八〇円、ポテトサラダ二五〇円など。
この値段だと、江古田では苦戦しているのではないかとも思われるが、客はまあまあ入っている。学生風の客ではなく、三〇−四〇歳くらいと、やや年齢層が高い。私と入れ替わりになった中年カップルは、「おいしかったね」といいながら出て行った。職場の近くに、美味いもつ焼き屋が増えるのは大歓迎である。
最近の学生は、コンパといえばチェーン店の飲み放題コースと決めてかかる傾向がある。実際には割高になるし、二時間で追い出されるデメリットもある。しかし会計の時、酒を飲まない人、少量しか飲まない人、逆に大酒飲みなど、飲む量に合わせて、会費をみんなが納得する範囲で少しずつ変えて集めるというマネジメント能力が失われているので、安易に流れるようだ。チェーン店でバイト経験のある学生はよく知っているから、飲み放題は割高だから単品で頼もうと提案したりするくらいで、店の思うつぼなのだが。学生のこういう変化が、個人店が苦境に陥るひとつの原因だろう。
初めての人には、場所は少々わかりにくい。江古田駅南口から、線路際を練馬方向に歩くと、都民銀行のあたりで道が自然に線路から少し離れ気味になり、神社の境内に突き当たるが、ここで左に曲がってすぐ。(2009.6.4)

練馬区栄町9-6
17:00〜 月休
http://www.kusakabejiro.com/index.html